彼らからプレゼント7題

1.銀のペンダント(済)
2.キャンディひと粒(済)
3.お祝いのキス(済)
4.映画のチケット(二枚)(済)
5.初心者向け料理本(済)
6.とっておきの景色(済)
7.おめでとうの言葉だけ(済)
お題配布元:「確かに恋だった」

※各お題によって最強の相手が違います。
プレゼントの送り主は()で表記。

基本的に×というより+です。







1.銀のペンダント

(ブギーポップ)


「貴様、そのエンブリオがなんなのかわかって言っているのか?」

 黒帽子ののどかとも言える調子に、フォルテッシモは苛立ちながら問い返す。

「もちろんだよ。ついでに言うならおそらく君たちが知らないことも知っている。たとえば、だ―――」

 黒帽子はエンブリオの他に、もう一つマントの下から何やら取り出してみせた。
 それは小さな銀細工のペンダントだった。銀のオープンハート、世界的に有名な宝飾品店ティ●ァニーのアクセサリーである。

 黒帽子はそのオープンハートを、エンブリオのゲーム端末にこんこんこん、と奇妙なリズムで細かく、複雑なテンポで叩いた。
 その時生じた現象を、フォルテッシモの優れた視覚は確かに捉えた。

「―――!」

 黒帽子がスイッチに触ってもいないのに、そのゲーム端末の液晶のディスプレイに表示されていた<EMBRYO>という文字がすうっと消えて、熊だか猫の二頭身キャラクターの画像に切り替わったからだ。
 そして一瞬、オープンハートの方がなんだか“ぶるるるっ”という身震いするような動き方をした。

「・・・・・・というわけだ。おわかりかな」

 そしてあっさりと、エンブリオが入っているオープンハートのペンダントをぽいとフォルテッシモの方に投げてきた。
 フォルテッシモはそれを受け止めた。すると、だしぬけにそいつが口をきいた。

『よお相棒、よろしくな』

 フォルテッシモはぎくりとした。その声は、オープンハートのペンダントに全く似合わない。
 そして、その瞬間である。
 “スフィア”全体を凄まじい衝撃が走って、建物中に爆音が轟いた。

「・・・・・・な!?」

と顔を上げたフォルテッシモの目にまず飛び込んできたのは、真っ赤な閃光だった。

炎―――

それが建物の至る所から噴出して、床を走り、天井を舐め、壁を埋め尽くしていくのだ。

「君にはまだやらなくてはならないことがある。ぼくとの勝負はそれまでお預けにしたまえ」

 声が遠ざかる。

「ま、待て! こいつを違うものに移してから行け!

 フォルテッシモは焦って怒鳴った。すると炎の間隙をぬって、何か白いものが彼の方にまた投げつけられてきた。
 反射的に掴むと、それはさっきまでエンブリオの入っていたゲーム端末だった。

“もしもまたぼくと会いたいならば、そのハートのネックレスを大事に身につけていることだ。それがぼくと君とをつなぐ<愛の保障証>というわけだ。統和機構にはそっちのゲームをくれてやれ。なあにエネルギーの残滓は確かに残っているから、簡単にだませるよ”

 あくまでとぼけた言い方であった。そのふざけたような調子にフォルテッシモはかっとなった。

「か、勝手なことを言うな! 何が<愛の保障証>だ! それにそんなことを言ってるんじゃねえ!」

 フォルテッシモの言葉に、黒帽子は挑んでいるような、からかっているような左右非対称の顔で高らかに言った。

“それじゃあ、またあえる日を楽しみにしているよ、フォルテッシモくん”

 それが最後だった。渦を巻く炎の向こう側にその気配は完全に消えて、見失った。






「フォルテッシモ」
「あ?」
「―――そのペンダント、女物ですよ」
知ってるよ!!

 今日も黒帽子は見つからない―――。


 オチはビート。
 お題配布サイト「確かに恋だった」さんで、このお題見つけたときに、
 「銀のペンダントってエンブリオしかないじゃん・・・・・・! 銀細工のエジプト十字架!」
と思って借りてきました。
 それなのに最終的にエンブリオがエジプト十字架に入っていないとはコレ不思議。

 しかし私は、ブギーポップをナンだと思っているのか。
 いやブギーポップ大好きですよ!? 普段はブギーさんと呼んでるくらいに!(ぇ)

 ネタ大好きなんですが、自分では面白く書けません。
 それにしてもティフ●ニーのオープンハートつけてるフォルテッシモって・・・!
 律儀に身につけなくていいよ!






2.キャンディひと粒

(モータル・ジム)


 ―――雨がしとしとと降り続いていた。

 モータル・ジムは右腕がなく左腕だけで、器用に車を運転していた。その隣の助手席には彼の主人、フォルテッシモが頬杖をついてぼうっと窓の外を眺めている。
 
 左腕だけでは運転しづらいのは事実だが、常人よりも遥かにすぐれた動体視力と反射神経を持っているモータル・ジムにとっては大したハンデではない。それよりも、彼の主に運転をさせて自分が何もしない、という状況のほうが彼にとっては耐え難いものなのだ。フォルテッシモが運転するのは気分屋の彼が「運転でもするか」と言い出した時だけだ。勿論その時は助手席に座らされるモータル・ジムだが、なんとも言えない居心地の悪さを感じるのだ。


 先ほどからフォルテッシモはほとんど微動だにせずに窓の外の雨を眺めている。ただ唯一右手だけが胸元のエジプト十字のペンダントを弄んで動いている。
 こんな風に“自分の殻”に閉じこもる彼は珍しい。モータル・ジムがフォルテッシモと行動を共にするようになって随分経つが、フォルテッシモは極稀に陰に入るように自分と世界を遮断することがあった。そんな時、彼は普段の闘争心を感じさせず、どこか覇気がない。

 車内にはフォルテッシモが大分前につけたラジオから、どこか悲しげな歌が流れている。郷愁の歌、とでもいうのだろうか。今は失き故郷、という歌詞が聞こえてきたがモータル・ジムには“故郷”などと呼べるものが存在しないので、特に何の感慨も抱かなかった。音楽に興味や関心を抱いたこもないモータル・ジムとしてはこの歌が今流行の歌なのか懐かしの歌謡曲とでもいうものなのかわからない(歌詞がなんだか古臭い気もするが、それだって彼の感性では当てにならない)。だが、なんとなくこの雨空には相応しい、と思った。


「ジム」

 突然名前を呼ばれ、モータル・ジムは僅かに身を堅くした。しかし極めて冷静に彼は自分の主に答えた。

「なんでしょう、フォルテッシモ」
「曲を止めろ」

 フォルテッシモは窓の外を見たまま吐き捨てるように言った。
 モータル・ジムは慌ててラジオを止めた。一瞬、ハンドルから完全に手が離れて車の進路がずれるが、直ぐに彼は軌道を修正した。
 フォルテッシモは先ほどまでとは打って変わって、わずらわしい様子で顔を歪めている。彼の機嫌が急に悪くなることは良くあるが、ジムは何故か今のフォルテッシモは寂しいと感じているのではないか、と思えてならなかった。


「フォルテッシモ」

 赤信号に引っかかって車を停車した隙に、モータル・ジムは彼の主人の名を呼んだ。

「あ?」

 不機嫌さを隠しもしないフォルテッシモに、モータル・ジムは一瞬躊躇したがおずおずと彼のポケットに入っていたものを差し出した。

「あの、これをどうぞ」

 フォルテッシモはモータル・ジムの方を見ることなく彼の手から受け取った物を見て、きょとんと瞬きをした。

―――ピンクの包装紙に包まれた、小さなキャンディ。

 しかし呆気に取られていたのは一瞬で、フォルテッシモは顔を歪めると胸元のペンダントを指で弾いた。
 モータル・ジムがフォルテッシモと行動をするようになって気づいたのだが、彼は何か気に入らないことがあったりすると胸元の銀のペンダントを指で弾く。怒りを紛らわせるための行為なのか、モータル・ジムにはわからない。

(怒らせてしまった)

 モータル・ジムは何故フォルテッシモにキャンディを渡したのか、今になって考えるとよくわからない。彼が甘いものが好きだからだろうか。それとも今自分が持っていたのがキャンディだけだったからだろうか(そのキャンディだって、買出しに行った店で配っていたのを貰ったものだ)。

「すみません、フォルテッシモ。お嫌いでしたか・・・・・・?」

 恐る恐る訊ねると、フォルテッシモはモータル・ジムを一瞥し、何も言わずにキャンディを口に放り投げた。
途端、キャンディの甘い匂いが車内に広がる。
 フォルテッシモは窓の外を見ながら、彼にしてはほとんど聞き取れないような小さな声でぼそぼそと、

「・・・・・・・・・・・・嫌いじゃねぇよ」

 とだけ呟いた。それ以上は何も言わずに会話もこれまでと示すように目を瞑った。


 暫くの間、車内にはキャンディがフォルテッシモの口の中で転がる音だけが響いていた。


「嫌いじゃない」は「好き」と同意語。そんな偏屈なフォルテッシモが好き、だ(妄想)。あ、別にジムが好きとかそういう意味ではありません(キッパリ)←酷っ
 飴の味はピーチミルクでもピーチソーダでもなんでもいいです。ピーチであれば!

 フォルテッシモが飴渡されて顔を歪めたのは飴がどうとかじゃなくてエンブリオにからかわれたからです。わかりにくくてすみません。ジム視点なんでエンブリオの声は聞こえません。エンブリオが何言ったかは各人の妄想で補ってください☆ 私は特に何も考えてません(ぉぃ)。

 フォルテッシモも人間だから極偶に鬱というか、気分が沈むこともあるかな、と。ジムは一応気を許されてるポジションにいる、ということでその様子を横で見てます。絶対服従誓ったし多少気を許されるってのもいいんじゃないでしょうか羨ましい奴め! まぁ、普段空気扱いされてる可能性もあるけどネ!(酷)







3.お祝いのキス

(ザ・スライダー)


 真っ暗だった。黒のペンキをひっくり返したような闇の中、何故だか自分の体だけは視認することができた。しかしそのことが心に引っかかりを与えることはなかった。
 目印も何もないその世界を、ただひたすらに歩き続けた。前も後ろもわからない、自分がどこから来たのかもわからなくなるその世界に、いつ現れたのか、遠くに微かな光が見える。だがどれだけ歩いても光に近づくことはない。そしてどれだけ時間が経っても(これは体感的な意味で、実際にはどれほども経っていないかもしれないが)、光が動くこともなかった。その光が太陽でも月でもないことはわかっていた。しかしそれが“何”かということはわからない。それでも足を動かし続けた。

 ずっと遠くの光を見続けて歩いてきたが、ふと、視線が足元に落ちた。それまで闇に包まれていた地面が、自分の足元だけ僅かな明かりを伴って輪郭を描いていることに気がついた。瓦礫のようなものが散らばった、灰色の荒廃した世界に自分は立っている。
 視線を再び上げると、少し離れた場所に一人の男がいた。人の気配などしなかったのにいつからいたのか瓦礫の上に腰を下ろして遠くの光を見ている。こちらから顔は見えない。すらりとした細身の男だった。背はあまり高くないようだが、手足ばかりがやたらに長い身体を影のように真っ黒な服が包んでいる。

 俺はそいつを知っている。一度、遭遇したこともある。ただ何者なのかがわからない。
 そいつは遠くの光から目を逸らし、首を動かしてこちらを見た。
 それは、自分と同じ顔だった。

「やあ」
「・・・・・・・・・・・・」
「まさかこんなところで逢うなんてな。俺が君を呼んだのか、君が俺を目指したのか。まぁ、どちらでも同じことだ。君は今ここにいる」
「・・・・・・・・・・・・」

 こちらの返事がないことなど気にする素振りもなく、朗らかに言葉を紡ぐ。その表情も柔らかく、とても穏やかだ。確かに自分と同じ顔をしているのに、まるで知らない他人のようだった。・・・・・・俺は生まれてからこんなにも穏やかな顔をしたことがあっただろうか? そいつを見ていると胸がざわざわして落ち着かなくなる。こんなことは今までにないことだった。

「・・・・・・大丈夫か?」
「何、が」

 そいつが下から心配そうな顔で覗き込んでくるので、僅かに身を引いた。これも、俺が知らない、他人に向けたことのない瞳だ。息が詰る。苦しくて胸元を強く握った。そこで初めて、いつも首からぶら下げているエジプト十字のペンダントがないことに気が付いた。

「大丈夫か?」

 もう一度確認するようにそいつが尋ねてきた。答える気にもなれず、目を逸らす。その行為が、自分がそいつから逃げているようで苛立ちが沸く。俺が、何かから逃げたいと思う、なんて。

「君は何故此処に来た?」
「・・・・・・知るか。こんなもん、ただの夢だ」

 答える俺の声はぼそぼそとして力がない。
 ・・・・・・夢なんだろうか。自分で言っておいてピンとこない。確かにこの世界は現実感がまるでない。だが、夢と言う言葉で片付けるにはリアルすぎた。
 そいつは俺の言葉に僅かに首を振ると俺を見据えて、

「いいや。君は知っている」

 と、断定した。真摯な目が俺を睨みつけているようで、腹が立った。俺もそいつを睨み返した。

「君は知っている」

 そいつは同じ言葉を繰り返した。

「そして俺も知っている。君が知っていること。君が求めてきたもの。“何故、ここに来たのが今日なのか”といこと」


「君の心が求めている。・・・・・・あるいは求めているのは俺の心かもしれないが」

 そいつは笑った。あまりに幸せそうに笑ったので、俺は驚くよりもぽかんとしてしまった。とんだ間抜け面だっただろう。エンブリオがいたら何を言われたかわからない。
 そいつは立ち上がると、ぼけっとして突っ立ている俺にさっと近づき頬に唇を押し付けた。あまりのことに反応できない俺に、そいつはもう一度笑いかけてきた。

「おめでとう」



「誕生日おめでとう、フォルテッシモ」



 唐突にザ・スライダー×フォルテッシモ。一応フォルテッシモ視点。
 自分の誕生日を心の奥底で意識してるフォルテッシモとザ・スライダーです。
 ザ・スライダーの口調がどうにも。フォルテッシモと正反対な感じにするか、そっくりにするか、で悩んだ結果中間? みたいな半端な喋り方に(汗)。
 「お祝いのキス」は誕生日の祝福の言葉と共に、と最初から考えていたんですが、フォルテッシモの誕生日を知っているのは彼自身と、おそらく彼を生んだ今では生きているのかわからない両親や家族のみ。と、なると誰がフォルテッシモの誕生日を祝えるんだ? ということで彼と共に人生を歩んできた、ザ・スライダーに強制的に祝って頂きました。私もフォルテッシモの誕生日が知りたい。
 あ、文章中でフォルテッシモが「胸がざわざわ〜」とか言ってますが、恋ではありません(爆)。自分と同じなのに違うザ・スライダーに複雑な感情を抱いてます。知らなかった自己を見せられる苦痛、とか。








4.映画のチケット(二枚)

(スクイーズ)



 任務を終えて街をぶらぶらしているフォルテッシモの前に、そいつがひょいと現れた。

「どうも。お疲れ様です、フォルテッシモ」
「スクイーズか。何のようだ?」
「いや、用というほどのことはありません。私も営業の帰りでしてね。あなたの姿が見えたもので」

 気軽に答えると、フォルテッシモは鼻を鳴らした。何やら不機嫌な様子で彼はスクイーズを上目遣いで見つめる。
 恐らくまた彼の意に沿わない任務だったのだろう。

「また人の散歩中に任務でも持ってきたなら戦ってやろうと思ったんだがな」
「街中でそんな物騒な事を言わないでください。コレを渡そうと思っただけですよ」

と、スクイーズはポケットから薄い紙を2枚差し出した。
 フォルテッシモは訝しげにそれを受け取る。

「映画のチケット・・・? どういうつもりだ?」
「貰い物ですよ。“表の仕事”の知り合いから沢山貰いましてね。事務所中に配って、それが最後なんですよ。あなたが好きそうな映画だと思ったものですから。誰かと行くなり、まぁ必要ないようなら捨ててくださってもかまいません」

 フォルテッシモは受け取った2枚のチケットをしばらく見つめていた。
 ただ、その顔から剣呑としたものが消えたことを感じて、スクイーズは胸を撫で下ろす。
 実際、さっきまで不機嫌さを隠しもしないフォルテッシモに、正直声を掛けるタイミングをしくじったと思っていたのだ。

 フォルテッシモは突然にやりと笑うと、スクイーズを見上げた。

「営業帰り、とかいったな?」
「ええ。と、言ってもまだ事務所での仕事がいろいろ残ってるんです。これでも忙しい身なので、」
「これからこいつを見に行くぞ。付き合えスクイーズ」

 スクイーズの言葉を無視して、フォルテッシモは傍若無人に言い放った。


「え? いや、私はこれから・・・」
「俺の誘いを断るのか? ん?」

 フォルテッシモは眉毛をちょい、と上げて驚いた表情を作ってみせた。
いたずらっぽく上目遣いで見つめると、スクイーズは「降参」を示すように両手を軽く挙げて苦笑した。

「わかりました。お供させていただきますよ」

 フォルテッシモは満足そうに頷くと、スクイーズの前をさっさと歩き出した。


(あれとあれは明日に回して、ああ、事務所に電話もしなくちゃいけないな)

 フォルテッシモの背中を追いながら、スクイーズはまるっきり普通の勤め人のように仕事のことをあれこれと考えていた。


 予想外のスクイーズ登場(そんなんばっかり)。映画のチケットなんて代物を持ってきそうな人が思いつきませんでした。ありがとうスクイーズ(^ ^)
 なんか発言が「エンブリオ」の後みたいだけど、時系列は深く考えてません(ぉぃ)。

 そしてこんなところを蝉ヶ沢卓を知っている人が見たら勘違いされること請け合い。
 だっておネエで通してるんですもんね! 普段おネエ言葉の男が少年と。そんな噂が耳に入ったらフォルテッシモはスクイーズを仕留めにいくと思います(・・・)。


 補足として、えーっとスクイーズが「営業」とかいってますけど、デザイナーの仕事の都合で外に出てただけです。わざわざ書くこともないかと思ったんですけど、ただのサラリーマンみたいな感じになっちゃったので。
 スクイーズがデザイナーって結構重要なとこですよね。
 後、二人が見に行った映画については考えてません(笑)。うーん、フォルテッシモが好きな映画ってなんだろう。今流行りのレッドクリフ(三国志とか好きそう)とか、古代ギリシャ・ローマ題材のトロイとか300とかそういう系ですかね。
 あ、本格ミステリーとかも好きかも! 推理好きかもしれない。








5.初心者向け料理本

(ユージン)


 差し出されたものを一瞥した途端、フォルテッシモはひくりと頬を引きつらせた。

「何のつもりだ? ユージン」
「プレゼントだ」

 ユージンは見下ろす形で彼と向かい合い、さらりと言った。
 フォルテッシモの頬がまたひくり、と引きつった。

「・・・・・・そうか。今ここで戦るか? この間の決着をつけようじゃねえか」

 フォルテッシモの眼がギラリと光った。まだ10歳かそこらにしか見えない幼い顔には似合わぬ鋭い目つきだ。
 統和機構でも“最強”と呼ばれ、多くの合成人間を恐れさせる眼光に、しかしユージンは怯まない。
 コンビを組んで間もないが、怯むことこそがこの少年の怒りに火をつけることは既によく知っている。

「君の目は確かか? これが果たし状にでも見えるなら眼科に行ったほうが良い」
「どういうつもりでこんなもんを差し出してるのか聞いているんだ!」

 フォルテッシモはユージンの手の中の『簡単! 定番料理!』と書かれたA4サイズの薄い本を叩き落とした。
 ユージンはそれに怒った様子も見せず、拾い上げると、

「初心者向けだ。君でもできる」

と肩をすくめた。

「なんで俺が料理なんか・・・!」
「その、『料理なんか』を毎回作らされる僕の身にもなってみろ」
「知るかそんなもん!」

 フォルテッシモは子供らしい癇癪を起こし、ユージンから顔を背ける。
 ユージンは盛大に溜め息を吐いた。もちろん、フォルテッシモに聞こえるように。

「なんでも食べるなら僕だって気にしないが、君は好き嫌いが多い。その上、味の好みもうるさいとくる。嫌にもなるさ」

 淡々とした調子で言うと、フォルテッシモは顔を背けたままで、ちらりと視線だけをユージンに向けた。
 なんだか怒られて不貞腐れている子供のようだ。
 ユージンはそんな彼を見て笑いたくなったが、顔には出さずに無表情のまま、

「少しくらい作れるようになっておけ。生きていくには必要なスキルだ」

と、本をフォルテッシモの隣に投げてよこした。
 フォルテッシモはすぐ隣の本を見て、もう一度ユージンを見た。
 この子供にしては珍しく迷っているようだった。

 だからユージンは発破をかけることにした。

「怖いのか?」
「・・・あ?」
「失敗するのが怖いのか、と聞いている」

 意地悪く笑うと、フォルテッシモはかっと頬を紅潮させた。

「こんなもん、すぐに作れる!」
「ほう」

 売り言葉に買い言葉、である。ユージンの勝ち誇った顔を見て、フォルテッシモは自分の過失に気づいた。


「それじゃあ是非作ってくれ。僕が“毒見”をしてやるよ」
「〜〜〜〜〜!」

 フォルテッシモはユージンを睨みつけるが、ユージンの方はどこ吹く風だ。

「っくそ!」

 フォルテッシモは毒づくと律儀に本を抱えて部屋を出て行った。
 彼は一度口に出したことは破らない。
 それがわかっているから、ユージンは彼が出て行った扉を見て僅かに口の端を持ち上げた。






「さぁ、食え、ユージン!」
「・・・・・・・・・・・・」


 彼の前には、甘ったるい匂いをさせたフレンチトーストが、バニラアイスと生クリーム、たっぷりのハチミツをかけられて鎮座している。


 転んでもただでは起きない。フレンチトーストの砂糖は通常の倍投下(いやがらせ?)。
 フォルテッシモは甘党。ユージンは普通の味覚。
 フォルテッシモは料理しないと思いますけど。意外に料理できてたら萌えるかも。できなくても萌えるけど(結局どっちでも良いんだねっ)。
 「エンブリオ 侵食」の時、フォルテッシモは見た目14〜5歳ということなので、これは10歳頃イメージです。
4、5年前ならユージンの見た目は変化してないだろう、ということで。合成人間の見た目の変化速度がどうにもわかりません。

 このお題、最初はイナズマで考えてたんですが、うまくいかなかったので急遽ユージンに変更。
 つい数日前に「パンドラ」を読んだことも大いに関係あります。
 我が家のブギーキャラで書いたんですが、ユージンが登場する予定は全然なかったんです。でも出てきましたねー(他人事)。

 ユージンをフォルテッシモと一緒に書けないのは、彼のスタンスをすいがよく理解してないからです。
 合成人間として振舞うユージンはすごくクールだと思うんですが、「エンブリオ 侵食」でのフォルテッシモが語った(独り言?)、「僕の負けだよ」という台詞はなんというか“天色優”のイメージっぽい気がして。
 フォルテッシモの前ではどういうキャラだったのかな? とか考えると、ユージンをどう書いていいかわからないんですよね。今回書いちゃいましたけど。よく行くブギーサイトさんではやっぱり“合成人間のユージン”であることが多いので、思いっきり影響されてます。

 最後までユージンがフォルテッシモのことを「君」と「お前」どっちで呼ぶかで悩んだ。正直今も悩んでる。







6.とっておきの景色

(オキシジェン)


 デパートの地下でいつものように任務の通達を受けて、二言三言交わしたところでフォルテッシモはその場を去ろうと男に背を向けて―――、
 そこで手首を不意に掴まれた。

「っ。なんだ、いきなり」

 彼にしては珍しく、やや動揺して上擦った声を出す。
 しかし、男―――オキシジェン―――は彼の言葉には答えず、じっとフォルテッシモを見た。
 長い前髪の間から見える瞳に、どこかいつもと違うものを見て取ってフォルテッシモは僅かに首を傾げた。

―――遠くを見る眼差しがいつもより柔らかくて、まるで、

 そこまで考えた時、唐突に掴まれた手が引かれた。僅かにバランスを崩すが、すぐに体勢を整える。
オキシジェンが彼の手を掴んだまま歩きだしたのだ。

「おいっ、どういうつもりだ!?」

 フォルテッシモの怒声にも相手は止まる気配を見せずに、掴んだ手もそのままにすたすたと進んでいく。
 腕を振り払うのは容易いが、何故かそうすることが躊躇われてフォルテッシモは舌打ちした。
 オキシジェンは苛立ちを隠さないフォルテッシモにちらりと視線を向け、相変わらず覇気に欠ける声で、

「・・・・・・見せたい、ものがある・・・・・・」

 ぼそぼそと呟いた。
 フォルテッシモはまだ憮然とした面持ちだったが、大人しくオキシジェンについて行いった。



 
 のんびりともいえるペースで延々と階段を上って行くのにはいささか呆れた。
 エレベーターもエスカレーターも完備しているデパートの階段を上る変わり者は二人の他にはいなかった。
 そしてそのままの歩みで8階建てのビルの半ばまで来たときにはうんざりした。
 エレベーターでも使えばいいのに、と思ってすぐにそれは思い直した。こんな風に手を掴まれたまま人がいる場所に行くというのは、普段から傍若無人で人目など気にしないフォルテッシモでも辟易する。


 最上階を超えて、屋上の入り口の前まで来て、オキシジェンは漸く歩みを止めた。
 屋上への扉には「立ち入り禁止」という札がかけてある。しかしオキシジェンは躊躇いなくドアノブに手を伸ばした。ガチャリ、と硬質な音を立ててごく自然にドアが開いた。何かの能力で鍵を破壊したのではなく、最初から鍵がかかっていなかったのだ。
 フォルテッシモは僅かに眉を寄せた。男の動きが自然すぎて、逆に不自然だったのだ。まるで鍵がかかっていないことを最初から知っていたような動きだ。
 しかしフォルテッシモの脳裏に浮かんだ疑問は長くは続かなかった。
 
「・・・・・・あ」

 彼は開け放たれたドアの向こうに広がる景色に息を呑んだ。



 空が、紫に染まっていた。正確に言うならば、青とピンクのグラデーションで飾られていた。ただ中間の紫が鮮烈な印象を与えたのだ。沈む夕日の周りはその光で空の色が一層薄く白けて、遠くの山々に紫の影がかかっている。僅かに星の瞬きが濃い空から覗いていた。地に面した家々には既に夜の帳が下り、黒く埋め尽くされたそこに人の温かさを感じさせる明かりが灯っている。
 
 体が痺れるような衝撃だった。
 こんなに美しい紫は見たことがない、と思った。

 呆然と目の前に広がる景色を見つめるフォルテッシモの横で、僅かに空気が揺れた。
 オキシジェンは夕暮れを見ているのか、それとも違う何かを見ているのか遠い目をして笑っていた。口の端をほんの僅かだけ上げた、微笑とも呼べないような笑い方だったが、普段の彼を知っている者からすれば、それは確かに笑顔だった。
 オキシジェンは前だけを見つめている。そしていつもと変わらぬ抑揚に欠ける声で言った。


「・・・・・・君の、色だ・・・・・・」

 美しい、空だと思った。だからこそ、

「・・・・・・っ」

 フォルテッシモは言葉に詰った。声が喉の奥から出てこない。詰ることも笑うこともできずに唇を噛んだ。
 頬が紅潮するのを感じて、その事実に尚更恥ずかしくなった。

「・・・・・・この空を、見せたかった・・・・・・」

 横に立つこの男が、今、自分の事を見ていようものなら反発できたのに。彼は相変わらず眼前の空をじっと見つめている。もどかしいさと安堵がない交ぜになった感情が湧いて、フォルテッシモはどうしていいかわからなくなった。
 
 と、それまで手首を掴んでいたオキシジェンの手が離れて、フォルテッシモの手を握った。
 フォルテッシモは反射的にオキシジェンを見上げた。いつの間にかオキシジェンが自分を見つめている。
 
 柔らかい眼差しが近づいて―――
 


 空の藍が濃くなっていく。夕暮れが、終わる。



 ロマンチックなオキシジェン。誰だコレw
 二人ともキャラ変わってるな。フォルテッシモがオトメンになっててスミマセン。

 空の描写をもっとキレイな感じが伝わるようにしたかったんですが、駄目でした・・・・・・。紫色の空って明け方のほうが見えることがあるらしんですが、これは夕方です。すいが以前見た紫の空も夕暮れ時でした。INDEXの画像の空です。実際は紫の色がもっとキレイで、ビックリしたのを覚えてます。すごく綺麗な紫でした。

 この話はオキシジェンの「君の〜」のところを言わせたかっただけの話です(ぶっちゃけた)。しかし予想外に最後がラブラブ(死)。







7.おめでとうの言葉だけ

(エンブリオ)


“―――おめでとさん、ついに“殻”をやぶったな。
と、言っても、もうお前には俺の声は届いていないだろうが・・・・・・。

お前との同調が切れて、俺も外が見えなくなっちまった。

お前が俺に気づくのはいつだろうな?
まぁ、気づいたからといってお前はどうもしないんだろうな。
静かになったってせいせいするか?


・・・・・・いつかこんな日が来ると思ってたぜ。
お前は自分で“殻”を破る、ってな。

生きる意味を、理由を得たお前がどこに行くのか見届けたかったが―――、
やれやれ、どうやら俺にはできないらしい。

また闇の中で待ち続けるだけの“卵”に戻っちまったな。

・・・・・・お前と過ごした時間はなかなか面白かったぜ。
少なくとも、この闇の中でも当分退屈しないだけの記憶が今の俺にはある。

柄じゃないが・・・、・・・・・・ありがとうよ。


最後に、もう一度―――、


おめでとう、フォルテッシモ”



 エンブリオ独白。短い。

 ちょっとわかりにくいかも。
 一応、カーメンを見つけたフォルテッシモが“突破”した直後のつもりです。

 エンブリオの声は、完全に“突破”すると聞こえなくなるんですよね?
 「ビートのディシプリン」から、フォルテッシモは自分のカーメンを探すだろうし、そうしたら目覚めかけているその力が完全なものになるのかな、と。
 そうなったらエンブリオとの掛け合いも見れなくなるのかぁ、寂しいな、と思いつつ。

 「エンブリオ 炎上」ではフォルテッシモはエンブリオの言葉を完全黙殺でしたが、「ビートのディシプリン」進むにつれ、結構普通に話してるし、会話してる時にエジプト十字架を弄ってるし、仲良くなってますよね。
 だから実際はフォルテッシモはエンブリオと同調が切れたら(表には出さなくても)寂しく思うんじゃないかなー、と。個人的には寂しく思って欲しいので。
 闇に取り残されるエンブリオが不憫です、よね。